B4-Quartet

The Beyond the Blood-Brain Barrier-Research Quartet (B4-Quartet)

「薬物の脳到達に関わる課題」を解決し、中枢神経系疾患治療薬開発の加速を目指す産学共同研究

 

 東京薬科大学と千葉大学はエーザイ株式会社と小野薬品工業株式会社と共に、産学連携共同研究体制「The“Beyond the Blood-Brain Barrier”-Research Quartet (B4-Quartet)」を立ち上げ、これまでに開発したヒト血液脳関門モデルを基盤技術として、創薬の非競争領域である「薬物の脳到達に関わる様々な課題」の解決を目指します。

 B4-Quartetの推進により、これまで創薬のボトルネックであった「薬物の脳到達に関わる課題」が解決するとともに、ヒト血液脳関門モデルを用いた新たな創薬プロセスが確立し、これらにより中枢神経系疾患治療薬開発が加速すると期待されます。

 現在は、リリースした内容を以下に示しますが、今後、共同研究成果を記載していく予定です。

【 研 究 内 容 】

血液脳関門とは?

 中枢神経系疾患は、治療薬の開発が難しい疾患領域です。この原因の一つに、血液脳関門1)の存在があります。血液脳関門は脳毛細血管内皮細胞2)を実体とし、アストロサイト3)や脳ペリサイト4)とともに構築される脳特有の血管構造であり、血液中の物質が無造作に脳内に侵入することを防ぐ”バリア”の役割を担っています。これにより、脳は必要な栄養素だけを血中から取り入れ、神経に障害を与えうる物質から隔離される環境を保っています。

Bres Alli Fig 1

中枢神経系疾患治療薬開発の難しさ ~脳に届かなければ薬はその効果を発揮できない~

一方、血液脳関門は薬とそうでない物質とを区別することは出来ず、そのバリア機能は薬に対しても働いてしまいます。薬にいくら薬理作用があっても、脳内に入らなければ治療薬として効果は発揮されません。また、仮に入ったとしても効果を発揮するために十分な量に至らなければ、やはりその薬の効果は発揮されません。そのため、中枢神経系疾患に対する治療薬を効率よく効果的に開発するためには、どの候補物質がどの程度ヒトの血液脳関門を透過するかを明らかとすること、さらにそれらがどの程度脳内に到達して滞留するか(脳内の薬物動態)までを予測することが必要とされています。また、より積極的に脳へ薬物を送り届けるための技術も必要とされています。ここではこれらをまとめて「薬物の脳到達における課題」とします。

Bres Alli Fig 2

ヒトを模した血液脳関門モデル

 上記「薬物の脳到達における課題」を解決するためには、ヒトの遺伝的背景の下で血液脳関門に関わる様々な実験を行う必要があります。しかし、ヒトを対象とする研究は倫理面や安全性の問題から治験以前の段階で実施することは不可能です。そこで「ヒトの代替となるモデル」が必要となります。Bres Alli Fig 3

これに対しこれまでに私達は、ヒト可逆的不死化脳毛細血管内皮細胞(HBMEC/ci18)、ヒト可逆的不死化アストロサイト(HASTR/ci35)、ヒト可逆的不死化ペリサイト(HBPC/ci37)を樹立し5)、さらに東京薬科大学・ エーザイ株式会社・小野薬品工業株式会社で連携してこれら細胞を用いた二次元型および三次元型のヒト血液脳関門モデルの開発に取り組んできました6)。ヒト血液脳関門モデル構築において、これらヒト不死化細胞は、血液脳関門機能を持ち、かつ扱いが簡便で安定している点で他の細胞種より優れています。そのため、ヒト不死化細胞による血液脳関門モデルを用いることで、薬物の脳到達に関する様々な研究を効率的に進めることが出来ます。実際に私達は、これまでの研究により、二次元型および三次元型のヒト血液脳関門モデルを薬物のヒト脳移行予測に用いることが出来る可能性を報告してきました。

『B4-Quartet』-血液脳関門の攻略に向けた産学共同研究-

 そこで次は、ヒト血液脳関門モデルを用いて「薬物の脳到達における課題」を解決していく段階となります。つまり、ヒト血液脳関門モデルを薬物の脳移行性評価や脳内濃度予測、薬物の脳送達キャリアの開発に応用し、さらにこれらを効果的に実際の創薬プロセスの中に組み込んでいく段階です。これを実現するには、臨床情報と共にヒト血液脳関門モデルより得られる結果を、モデリング&シミュレーションなどの定量的アプローチで統合的に解析・検証していくことが必要となります。このように高度で多岐に渡る専門性を要する研究を実施するためには、より強力な産学連携体制が求められ そこで私達は、新たに千葉大学(機関研究代表:石井伊都子)の参画も含めて産学連携体制を強化し、「薬物の脳到達における課題」を解決する新たな共同研究体制を「The“Beyond the Blood-Brain Barrier”- Research Quartet (B4-Quartet)」としてスタートさせます。B4-Quartetでは、ヒト血液脳関門モデルの改良も同時に進めながら、多様化するモダリティーに対応出来るよう複数のテーマを設定して研究を推進します。さらにB4-Quartetは、血液脳関門を越える研究のフォアランナーとして、ヒト血液脳関門モデルを組み込んだ新たな中枢神経系疾患創薬の候補品選別プロセスを確立し、それを一般化することで、創薬基盤技術から中枢神経系疾患治療薬の創出を加速させることを目指します7)。私達B4-Quartetが見据える未来は、血液脳関門を越えた先にある、中枢神経系疾患を克服した世界です。

Bres Alli Fig 4

B4-Quartetの成果は、随時、学会、論文、プレスリリースにて公開していきます。また、東京薬科大学薬学部個別化薬物治療学教室のホームページにも本内容をまとめます。B4-Quartetは創薬の非競争領域を強化するオープンコラボレーションの一環です。ご質問や関心がございましたら、末尾にある連絡先までお気軽にお問い合わせください。