研究テーマ

◆副作用のない安心できる薬物治療を! 

ヒトを対象とした薬物代謝酵素活性評価法の開発

抗がん薬をはじめ効果の強い薬では、重篤な副作用で投与量が見直されたり、治療が中止となる場合があります。私たちは、初回から患者さん一人ひとりに適切な投与量を決めることを目指し、薬物代謝酵素活性の正確で簡便な評価法を開発しています。現在、臨床応用を目指した研究を進めています。

 

1) CYP3A: 内因性コルチゾールを指標とした乾燥ろ紙血、唾液による非侵襲的活性評価法の開発と応用

CYP3A は、臨床で使用されている約半数の医薬品代謝に関与しているのにも拘らず、遺伝子多型診断による代謝活性の予測ができません。私たちは、内因性コルチゾールの CYP3A による 6β-ヒドロキシコルチゾールへの代謝クリアランスによる活性評価法を開発し、これを基に1点採血による CYP3A 活性評価法を確立しました (特許第6937512)。さらに、病院に行かなくても、自分で数滴の血液をとることができる、「乾燥ろ紙血」による CYP3A 活性評価も開発しています (特許第7442165)。現在は、痛みを伴わずに得られる「唾液」を用いた活性評価法の開発を進めています。活性評価により初回の投与から副作用のない治療への貢献を目指しています。


 

2) CYP1A2: 内因性メラトニンを指標とした活性評価法の開発

CYP1A2 は医薬品の15%以上の代謝に関わっており、ヒトにおける簡便な活性評価法を開発することは、個別化薬物治療の推進に役立ちます。私たちは、CYP1A2 による内因性メラトニンから 6-ヒドロキシメラトニンへの代謝を利用した採血・採尿のみで行うことができる簡便で新しいヒト in vivo 酵素活性評価法を開発することを目指しています。これまでLC-MS/MS による血中メラトニンと 尿中6-ヒドロキシメラトニンの高感度測定法を開発し、それらから算出されるメラトニン部分代謝クリアランスと既存法のカフェインクリアランスとの相関性を研究してきました。さらに研究を進め,簡便で臨床応用可能な活性評価法の確立を目指しています。


 

◆病気の原因を解明し、治療につなげる! 

安定同位体トレーサー法によるパルミチン酸の体内動態解析を目指したGC-MS 定量法の開発

パルミチン酸は生体内に最も豊富に存在する脂肪酸ですが、肝臓への過剰な蓄積が肝疾患の原因となります。非アルコール性脂肪性肝疾患などの肝疾患時には、パルミチン酸の吸収過程が変化することが報告されていますが、詳細は明らかとなっていません。生体内に多く存在するパルミチン酸の体内動態を明らかにするためには、安定同位体で標識されたパルミチン酸(安定同位体トレーサー: palmitic acid-13C1を薬のように投与して、生体内のパルミチン酸と区別して定量する方法を用います。私たちは、愛媛大学医学部との共同研究において、palmitic acid-13C1 を投与する安定同位体トレーサー法によるパルミチン酸の吸収過程の解明を目指しています。これまでに GC-MS による palmitic acid-13C1 定量法を確立しており、ヒトでの検討を目指した動物を対象とする検討を予定しています (当教室では愛媛大学から提供された動物血漿の測定・解析を行います。動物の扱いは予定していません。)


 

高精度微量分析で体内動態解析!

私たちは、LC-MS/MSGC-MSを用い、安定同位体標識体を内標準物質とするヒト血液・尿中・唾液中の内因性物質や薬物 (分子標的抗がん薬、合成ステロイド薬など)の高精度・微量定量法を開発してきました。正確なデータを得るためには、高い分析技術が要求されます。得られたデータから母集団解析などの技術を用いて体内動態解析を行い、患者さん個々の至適投与量の決定(薬物投与法の個別化)に応用し、臨床現場における安全で有効な薬物療法に貢献することを目指しています。